金儲け哲学[読書][money]

糸山英太郎氏の「金儲け哲学」を読んだ。非常にためになった。

著者の糸山英太郎氏の経歴はWikipediaをみていただければわかるが(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%B8%E5%B1%B1%E8%8B%B1%E5%A4%AA%E9%83%8E)、清濁併せ呑んだ凄みのある人物だ。

ウィキペディアの経歴だけ見ると、かなりのワルであるように感じてしまうが、本書を読むと、氏の天真爛漫さに端を発する人としての魅力や、軸のぶれない哲学を持っている強さもわかる。一昔前のワルの大物政治家、という感じだ。偉業を為すにはパワーが必要だし、そのパワーが時にはけ口を間違えることもあろうと思う。だが、そういうパワーを持つ人に、独特の魅力が備わっているのも常だ。本書を読んで特に感銘を受けたのは氏がいつも頭と体を使っているということ。本書には豊富な氏の実体験が書かれており、そこに頭と体を常に使っていることが現れている。以下に一部を紹介する。

中古外車セールスの実体験

雇われの身で中古外車セールスをしていたときに、訪問先の受付などで名刺を見せたとたんに、受付嬢や秘書を通して居留守を使われ、門前払いを食わされたこともしばしばあったという。氏は、名刺に肩書きが印刷されており、自分がセールスマンであることがわかってしまうことが問題だと考えた。そして「いっそ肩書きなど抜いてしまえ」ということで、表側に名前、裏側に会社の住所と電話番号だけを記した名刺を用意した。果たして、訪問先で、「糸山英太郎と申します。ごぶさたしていますが、社長さんはいらっしゃいますか?」と名乗ると、意表をつく名刺が功を奏して、てっきり社長の知り合いと思い込みすんなりと社長に取り次いでもらえたとのこと。当然社長は氏の顔など知らないわけだが、氏は社長と旧知の知り合い然とした大芝居を打つと、社長もなかなか「どなた様でしたっけ?」とは聞けない。10分ほど雑談した後、正体を明かすと、10人のうち5人はカンカンに怒り、あとの5人は「そこまでやるか」と呆れながらも商談に付き合ってくれたという。そして氏は一年間で77台の車を売りまくるという当時の業界新記録を樹立した。

プール経営の実体験

また、新日本観光に勤めているときに、経営しているプールの業績が思わしくなく、糸山氏が担当することになった。経営しているプールは京阪電鉄牧野駅前にオープンしたので、立地もよいし、規模も大きく作りも豪勢だったので、一度足を運べば顧客はプールのよさを実感するように思われた。しかし、ひとつ手前の駅である枚方駅に京阪電鉄直営のプールがあり、車内アナウンスで「次は枚方〜、枚方プール前」と流すので集客に苦戦していた。氏は京阪電鉄に車内吊り広告を出させてもらえるよう交渉したが、はねつけられた。そこで、枚方駅で毎日曜日、プールの無料入場券をばらまき、プールの集客数を飛躍的に向上させた。枚方プールの集客数は急落し、案の定、電鉄側から休戦申し入れが氏のもとにあった。氏は巧みな交渉術、というよりは基本に忠実な交渉術を発揮した。最初にこちらの想定する妥協点よりも非常に良い条件を提示するというものだ。「車内アナウンスの『プール前』というやつ、あれをやめてくれますか?」という訳だ。もとより敵が呑むはずもないとわかった上での無茶な要求で先制パンチをお見舞いする。電鉄側を仰天させておいて、「車内アナウンスをやめてくれないなら、無料入場券もやめない」とごねたのだ。結局電鉄側が「車内の吊り広告は認めますから、それで勘弁してくださいよ」と擦り寄ってきたそうな。最初に大きく出た分、相手にしてみれば実は破格の損になる条件が格段によく思える、という人間心理を突いた作戦が功を奏したのだ。

体験談のまとめ

本書には上記の様な実例がふんだんに紹介されており、頭と体を使うことがいかに重要かを認識させてくれる。名刺の件などは、なかなか解決方法が面白い。論理的に考えれば確かに氏の発想に行き着くかもしれないが、それを実行するところがすごい。大変な胆力の持ち主だと感心しきり。頭で考えるということは実は難しい。先入観に捕われて脳死状態になってしまいがちなのだ。セールスなんて嫌われて当然とあきらめた時点で脳死状態に陥る。頭を働かし続けることで氏は難局を打破して行く。考え続け、その考えを実行することの効果の大きさと、そして自分ができるだろうかと自問することにより、その難しさの両方を感じることができた。

糸山英太郎氏の哲学と投資方法

また、本書には糸山氏の哲学や投資方法をに関する記述も多い。特に印象に残ったものや有用と思ったものを以下にメモしておく。

  • 投資する金の量が多ければ多いほど、同時にそれを寝かせておく時間が長ければ長いほど、儲かる率は高い。投資は『投資資金×年月』がモノを言う世界。

「一度に大量の資金を投入して、短い期間でたくさん儲けよう」なんて欲の皮を突っ張らせても、絶対に儲からない。「値が安いときに買い足す」方式で、投資する資金量を徐々に増やしながら、時間をかけて取り組めば、株は儲かることを学んだのである。

私のカネはどんなリスクにさらされようと、何年も寝かしておくことができる、そういう余裕のあるカネなのだ。
よく言われるように、株は余裕資金でやらないと勝てないというのは本当のことだ。なけなしのカネをはたいてやるものではない。
機関投資家の間では、「ロスカットの管理が最も重要である」というのが常識らしいが、ちょっとソンしたら売って決済するなんて方法は、私に言わせると時間に負けて早々に白旗を振っているようなもの。彼らには私のように、無限に寝かせておける時間が与えられていないということを、つくづくお気の毒に思う。
株価が下がってもナンピンをかけて勝負し、利益が出るまで売らない、この姿勢を貫く限り、私が株で負けることはありえないのである。

近藤氏は売りを得意としていた。「この株は高すぎる」と判断すると、その株の空売りを始める。すると株価はどんどん下がる。こうして下がり切ったところで買い戻して決済をし、その差額で儲けるのだ。なかなか値を下げない株にもガンガン売り浴びせて、強引に株価を暴落させるやり方だ。
いまでも私は、空売りする投資家が好きではない。なぜなら、「他人にソンをさせて、自分だけが儲ける」手法だからだ。株は、自分が投資する企業が成長することを、その結果として値が上がることを期待して買うものなのに、値下がりを当てにするところも気に入らない。企業が落ちぶれるのを心待ちにしているのと同じではないか。
「金持ちならば、他人に儲けさせて、自分も儲けるのがスジではないか」と私は思い、徹底抗戦に出た。近藤紡から出る大量の売り物と、その尻馬に乗って売りに出た投機家の中山製鋼株を、必死になって買いまくったのである。
近藤紡から「二百万株近い信用売りの分だけ、カネを用意するから応じてくれ」と手打ちを求めてきたのは、仕手戦が始まって半年後のことである。
〜中略〜
私がこの仕手戦で学んだことは、空売りの恐ろしさである。近藤氏のそれを目の当たりにしなかったら、私はいずれ空売りに手を出し、手痛い目に遭っていたかもしれない。これを教訓にして、私は今日までずっと、どんな場合も空売りしない方針を貫いている。

  • 愛国心で株を買う
    • 氏は政治家を務めたこともあり、その経験から愛国心を強く持つに至ったと言う。日本の株が値を下げた大きな原因は、外国人投機筋が金融関連株をはじめ、日本航空新日鐵三菱重工といった日本の代表的な企業の株を猛烈な勢いで売ったことにある。糸山氏はなんとか助けたい一心で、必死で買い支えているとのことだ。ナショナリズムが投資の大きなモチベーションになっている。氏曰く、「日本を愛し、将来を本気で心配するなら、いまこそ株を買うべきだ。戦後の焼け野原から立ち上がって、大衆が一丸となって驚異的な経済発展に力を発揮したように、みんなで株を買って"日本の価値"を上げようではないか。」。株価が千円下がると、日本の財政は二十五兆円減ると言われているらしい。株価を上げれば、国の為になることは間違いない。
  • 逆張りをする。買い増しをする。
    • 百人中九十九人の投資家が、「下がるぞ、下がるぞ!」と、真っ青になって慌てて株を売っているときに、淡々と株を買う。逆に、百人中九十九人の投資家が、「上がるぞ、上がるぞ!」と、興奮で顔面を紅潮させて買っているときに、淡々と株を売る。「安いときに買って、高いときに売る」という株で儲ける基本に忠実である。それが人の行動の逆を行くことになるらしい。
    • 株に投資する資金は一度に全額を使わずに、三分の一から二分の一の金額を使って投資するとのこと。値下がりしたときにナンピンをかける準備をしておくのだ(ナンピン:買った株が値下がりしたときに、それをさらに買い増して、買いの平均コストを下げること)。

たとえば、三菱重工株を四百八十円で買ったとすると、三百を割ったところでナンピンをかけて三分の一くらい買い足せば、買値平均が四百円くらいになる。さらに下げれば、残りの三分の一でまたナンピンをかけて…というのを繰り返して、買い値平均価格をどんどん下げていけばいい。

  • 1.5〜2割抜けたら、ためらわずに売る
    • バブル時代は、長期投資に徹して含み益を増やすのが株最大のうまみだった。現代は経済が低迷しており、同じ銘柄が二〜三年にわたって買い続けられ、株価が三〜五倍に値上がりするケースなど、ほとんどない。割安な株を買うことはもちろん、その銘柄が1.5〜2割抜けたら、何も考えずにさっさと利食って、利益を確保する。これを五回繰り返せば、資産は1.5〜2倍になる。氏の場合は値動きが激しいNTTやソニー等の銘柄を中心に2〜2.5割抜けたところで利食うスタイルだそうな。あらかじめ、買い値と売り値の計画を立てて、その通りに進めなければ儲からない。この手法で投資する場合は、銘柄をしぼることが重要。ひとつの銘柄を追いかけているほうが、値動きの特徴を掴みやすいし、情報収集も楽。売買を繰り返すうちに、自然とベストな売買のタイミングを覚えられる。ちょっとした情報をつかむたびに趣旨替えをして別の株に乗り換える人が多いようだが、儲からないばかりか手数料貧乏になるとのことだ。
  • 株価上下動はあっても国際優良株しか触らない
    • 「絶対に潰れない」確証が重要。潰れたら日本が困るという会社を選ぶ。NTT、JR、東京電力東京ガス等の公共事業をやっている会社。ニューヨークにも上場している日本の会社は潰すと日本の信用がガタ落ちになるから、潰す訳にはいかない。常に世間の目に晒されるから、隠し事もしにくいし、業界ナンバーワンのプライドもあり、立派に会社を運営しなければならない使命を担わされている。

いくら株価が安いと言っても、値が上がらない株を掴んでは元も子もない。くれぐれも、百円未満の額面割れを起こしていて、しかも経営改善に向けての会社の努力が見られない銘柄、何か悪いことをしたために経営が極端に落ち込んでいる銘柄は避けた方がいい。株価を戻す力はない。

私は誰もが知っている優良企業の銘柄しか興味はない。たとえ、私がその会社を知らないだけで、世間一般では立派な会社とされていたとしても、また経営者の評価が高く株価がどんどん上昇しているとしても、自分が見たことも聞いたこともない会社には見向きもしない。
そもそも、自分が知らない会社に「成長してほしい」という夢を託すことなど、できないではないか。
〜中略〜
「育ててあげよう」という愛情があれば、ソンをしても諦めがつくというもの。逆に、儲かれば「育ててあげたんだ。利益を受け取る権利がある」となるから、「株で儲けたカネはあぶく銭だ」といった自嘲的な気分に陥ることもない。

その他メモ

  • 企業が合併する場合は安い方の株を買っておけば上がると考えられる。
  • ETFという日経平均株価に連動して動く投資信託の購入はおすすめらしい。氏も日経平均が一万円切ったときにはもちろん買ったらしい。値動きもそれなりに激し