V字回復の経営

最近、「V字回復の経営」を読んだ。著者の三枝匡さんはコンサルタントとして活躍されてきた方で、その経験を通じて体得した知見をまとめている。


自身が担当した案件をデフォルメしてストーリー仕立てにして伝えてくれるので、読んでいて面白いし、構造改革現場の雰囲気や熱意といったものが読み手によく伝わってくる。経営本としても、読み物としても楽しめる。


結局構造改革の正否は人心を掴めるかどうかで決まる。人心をつかむためには、改革推進者が不退転の決意を持つこと、現状を認識し問題意識を共有すること、現状打破にむけてとるべきアクションの目的(戦略)が明確で説得力があること、説得力を持たせるためにデータを集めること、社員が実際に手を動かせるレベルに問題への対策をブレークダウンすること、他にも多くのことが本書で触れられており、ひとつひとつの要素は特別なことではないが、それらをひとつひとつしっかりと押さえていくことが重要だ思う。


組織を動かすのは当然人。そして、人を動かすのも人。いかにうまく人を動かすか、という命題に応える方法には、パターン化できるものが当然ある。そのパターンを本書は語る。しかし改革において人と人のぶつかりあいという複雑系が存在する以上、手持ちの理論だけでは改革を進められない局面が必ずあるだろう。コンサルタントという理詰めで考え抜く仕事を長年経験してきた著者が、「それでも最後は熱い想いだ」という熱い想いを抱いているであろうことを本書を読むと感じる。だからこそ、本書がストーリー仕立てであることに意味があるのだ。「熱い想いが重要だ」という理論では熱い想いの生々しさが伝わらないだろうから。


将来、自分が改革する側、あるいはされる側にまわる機会が来たら、再び本書を手に取ってみようと思う。